空海の密教思想の根幹をなすとも言えるのが三大説です。それでは、三大説とは何かを説明していきます。
まず、空海さんはこの論を立てるにあたって、『大乗起心論』という大乗仏教の概説書のような書物を参考にしています。『大乗起心論』というのはその名の通り、大乗仏教に対して正しい信心を起こさせることを目的にした書物です。この書物の中で、大乗の本体である真如を説明する際に用いている方法論が参照されています。真如というのは、真理などともいわれますが、物事のありのまま、真実の姿を指して言った言葉です。『大乗起心論』では我々のような衆生の心こそが大乗の真如そのものだとします。つまり、我々の心の中に如来になる性質すなわち仏性があるということを説いています。(これを如来蔵思想なんて言います。)そして、その真如を三つの側面から分析するのが、『大乗起心論』の三大説です。
まず、この大というのは全宇宙に行きわたるという意味で大としています。そして、三大とは「体大」「相大」「用大」の三つです。体とはその名通り、人の心の本体のこと。相とはすがた、用とははたらきのことです。この用は「よう」とは読まず、「ゆう」と読みます。『大乗起心論』では、真如の本体自体を「体大」、その真如が人の心の中で如来の性質を保っている状態を「相大」、そして、その真如が人に良い行いを起こさせて良い報いを得させることを「用大」と分析しています。また、『大乗起心論』の注釈書であり、空海も大変、重要視した『釈摩訶衍論』という書物にも、全ての事柄の本体(この書物ではそれを不二摩訶衍と呼びます)を説明して衆生の一心と言い、この衆生の一心を体・相・用の三方面から解説しています。これらの説に立脚して空海も密教の教えを体系づける三大説を打ち立てました。
空海さんの立てた、密教の三大説を非常に端的にまとまている文章があります。それが、世に「即身成仏頌」などと呼ばれている詩です。空海さんの書物の中のいくつかに使用されている文章ですが、ここでは代表して『即身成仏義』という書物から、その一部を引用してみましょう。本文は漢文ですが、ブログは横書きなので、書き下し分で紹介します。
『即身成仏義』
六大無礙にして常に瑜伽なり 体 四種曼荼各の(おのおの)離れず 相
三密加持して速疾に顕る 用 (『大正蔵』七七・三八一頁・下)
つまり、六大を「体」に、四曼を「相」に、三密を「用」に配当する思想です。では、この、六大、四曼、三密とは一体何であるのかは、ページを改めて解説しますが、これらを総じて言うなれば、「体より見ればことごとく六大、相より見ればことごとく四曼、用より見ればことごとく三密」というのが、三大説の帰結するところと言えるでしょう。宇宙全体を大日如来として把握する密教の理論を具体的、哲学的、宗教的、実践的に説明する、真言密教教学の根幹なのです。
コメント
私は現在76歳。若いときから気になっていた空海について、数年前から、様々な本を読み始め、現在は「秘密曼荼羅十住心論(空海コレクション3・4)福田亮成校訂・訳」をスキャナー(自炊)し、自分なりの本にし、生命がある限り、空海思想を勉強したいと考えております。その最初の文中に「六大体大」という語がありまして、意味がわかりませんでした。ネットで調べて行くうちに先生のサイトに着きました。非常に理解しやすい、易しい語句での説明にうれしく思いました。
私は仏教者ではありません。仏教については素人です。が、若いときから、宇宙(自然)と人間ということを考え、人間、死んだら、帰るべき所に帰るのだろう、「帰るべき所」とは、どこか。空海から探れるような気がします。先生におかれましては、お忙しいと存じますが、私たちに易しく、仏教、空海関係についてお教えいただければ嬉しく思います。ありがとうございました。
はじめまして、大変嬉しいコメントをいただき、ありがとうございます。私自身もまだまだ勉強が足りていないのですが、子供が生まれて、子供達に仏教の精神を説明しようと話しをするうちに、仏教の解説書などは意外と一般の方にはわかりにくい言語で書いてあることが多いということに気がつきました。仏教は本来、我々の生活に根付いた精神性を説いているはずなのに、特に若い世代にとってはどこか遠い存在になっているような感じもあり、残念です。そこで、人によっては多少不謹慎に聞こえても現代の人たちにわかりやすい言語で、時には若者言葉も使用しながら話しをしておりますと、学生なども大変すんなりと聞くようになったことは私の成果の一つと考えようと思っています。最近は忙しく、ブログの更新がままならないのですが、また、ご覧頂く機会がございましたら、覗いてみてください。本当にありがとうございました。